好きになってはいけない人。
これを読んでいる貴女もそんな人に出会ってしまったのかもしれませんね。
私もそんな女性の1人。
そうしようもなく惹かれてしまう相手が好きになってはいけない人。
自分の気持ちを心の奥底に隠し、表情に表さないように自分を戒める。
そんな毎日を送っていました。
そんな私のお話を聞いてください。
はじめに: 新しい部門のリーダー、田中
私はリーダーとして、数々のプロジェクトを成功へと導いてきた。私の名前は佐藤真理。しかし、その胸中には誰にも言えない秘密の感情があった。
「おはようございます、田中です。よろしくお願いします。」
田中との初めての出会いは、それほど特別なものではなかった。彼は新しく部門に赴任してきたリーダーとして、僕たちの前で淡々と自己紹介をしていた。彼のスーツは真新しく、緊張の色を見せずに立っている姿は、まるでこの部門で長く働いてきたかのようだった。
しかし、彼との初めての業務連絡で、私の中の何かが変わり始めたのだ。
「真理さん、この資料の修正、お願いできますか?」
彼が私に話しかけた瞬間、その声には自信と優しさが混ざっているように感じた。私は頷きながら、内心では少し驚いていた。彼は新しい部門のリーダーであるにも関わらず、私の名前をちゃんと覚えていたのだ。
「もちろん、田中さん。すぐに修正しておきます。」
彼とのやり取りは短かったが、その一瞬で私は彼のプロフェッショナルさと、人としての温かさを同時に感じ取った。
私の友人に、昔からよく聞かれる話がある。それは、"初めての印象は大切"というもの。まるで、初めて出会った人の印象が、その後の関係性を大きく左右するかのような話だ。私はそれを半信半疑で聞いていたが、田中との出会いで、その言葉の意味を深く理解することになった。
私は彼の優れたリーダーシップを尊敬するようになった。その感情は純粋なものだった。しかし、時間が経つにつれて、私の中で彼への感情が複雑に絡み合っていくことになるのだが…それはまた別の話。
月日が経つにつれ: ふたりの関係の変化
月日は流れ、季節は巡る。あの初めての出会いからもう1年。田中さんと私、真理は多くのプロジェクトを共にしてきた。日々の業務を通じて、二人の関係は徐々に変化していった。
「真理さん、今週のMTGでこのプランを提案しましょう。あなたの意見が必要です。」田中さんが私に声をかけてくることが増えていた。彼の声にはいつも優しさと信頼が詰まっていた。
「ありがとうございます、田中さん。考えてみますね。」と返す私だったが、心の中では彼の言葉が特別に感じられていた。
たとえるなら、それはまるで子供の頃に遊んだ砂浜の砂遊び。最初はただの砂だったが、少しずつ水を加えて固めていくと、次第に形ができあがる。私と田中さんの関係も、毎日の小さなコミュニケーションが砂と水のように絡み合い、何か新しいものが形成されていったのだ。
しかし、その「形」に私自身がどう向き合っていいのか、日に日に悩むようになっていた。彼との業務上のコミュニケーションはスムーズで、信頼関係も築けていた。だが、心の中では彼への感情が高まっていくことに気づいてしまっていた。
「真理さん、このデータ、確認してくれましたか?」彼の質問に、私は少し緊張して「はい、大丈夫です」と答える。しかし、その背後で心の声は「なぜこんなにドキドキするんだろう…」と問いかけていた。
夜、布団の中で目を閉じても、田中さんの顔や言葉が頭から離れない。知らず知らずのうちに、彼を意識するようになっていた。心の中で、「これはただの感謝の気持ちなのか、それとも…?」と自問自答を繰り返す日々。
月日が経つにつれ、私と田中さんとの間に生まれた絆や信頼は、私の心に新たな感情の芽を生やしていた。その感情にどう向き合っていけばいいのか、まだ答えは見つからない。しかし、その答えを探る旅は、まだこれからだった。
眠れない夜: 田中の存在との葛藤
夜、部屋の灯りだけが私の思考を照らし出す。シーツの上でくるくると身体を動かし、どうしても目を閉じることができない。
「なんでこんなに田中さんのことを考えてしまうんだろう...」
布団の中での私の心の声は、誰にも届かないまま響いていた。彼の笑顔や、ちょっとしたジョーク、そして真剣な眼差し。それら全てが私の心をつかみ、放してはくれなかった。
例えるなら、それはまるで紐で結ばれた風船のよう。どんどん上へと浮かび上がる感情を、理性が必死に引き戻そうとする。しかし、その紐はほんの少しの力で切れてしまいそうなほど、脆く、そして細かった。
「でも、田中さんは既婚者だ...」
この事実は、私の心の中で常に大きな壁として立ちはだかっていた。彼との日常のやり取り、業務中の笑顔や励ましの言葉。それらは私にとっての大きな支えであったが、同時に胸の中に深い傷をつけていた。
「真理、今日も頑張ったね。ありがとう。」彼の優しい言葉に、いつも心が締め付けられる感じがした。他の同僚たちも、二人の関係に何かを感じ取っているのだろうか。そんな思いが頭をよぎる度に、私はさらに自分を責めてしまう。
また、一緒に仕事をする機会が増える中、他の同僚たちとの関係にも少し影響が出始めていた。彼との距離が近いと感じることで、他の人たちとの距離が遠くなってしまうような錯覚を覚えることが増えた。
「田中さんと真理さん、また二人でプロジェクト進行中?」同僚の田辺が笑顔で言う。それは冗談のような口調だったが、私の中でひどく重く響いた。
「ええ、そうです。」と答える私だが、心の中では「私たち、何か変だろうか?」との思いが止まらなかった。
夜は更けていく。田中さんの存在は私の心に深く根付き、その感情との葛藤は私を眠らせてくれなかった。明け方、ようやく眠りについた私の心は、どこか遠くへと飛んでいった。
友人との会話: 第三者の視点
私は普段から親しみを感じていたカフェで、大学時代からの親友・梨花とランチをしていた。彼女は私の秘密を知る数少ない人の一人。私たちのテーブルには、美味しそうなサンドイッチと温かいカプチーノが並んでいる。
「真理、最近どう?いつもよりちょっと疲れて見えるけど。」梨花が心配そうな眼差しで言う。
私は深く息を吸い込み、決意を持って彼女に告げた。「実は、田中さんという新しい部門のマネージャーに...気持ちを持ってしまっているの。」
彼女の目が大きくなった。「え、田中さんって、あの既婚の...?」
私はうなずきながら、心の中で言葉を探っていた。この気持ちをどう形容すればいいのか。例えるならば、それは海辺で拾った小さな貝殻のよう。外側はつるつるとしているけれど、中には砂が入っていて、持っているうちに手に痛みを感じるようなもの。
「うん、分かる。真理がどれだけ真剣に考えているか、それは伝わってくるよ。でも、田中さんって、すごくいい人だよね?」梨花が慎重に言葉を選んでいるのがわかった。
「はい、それが問題なの。」私は苦笑しながら答えた。「彼と一緒に仕事をするのはとても楽しいし、学びも多い。だけど、彼が既婚者だという事実を忘れることはできない。」
梨花はしばらく黙って考え込んだ後、私の目を真っ直ぐに見つめて言った。「真理、大事なのは自分の気持ちを正直に向き合うこと。もしこの感情が仕事に影響してしまうようなら、一度距離を取るのも一つの方法かもしれない。」
私は彼女の言葉に深く頷いた。「ありがとう、梨花。考えてみるね。」
その日の会話は、私の胸の中のもやもやを少し晴らしてくれた。親友の言葉は、私の心の中の迷路の一部を照らし出してくれた。
悩みを乗り越えるための方法: 内なる探求
月日は流れ、私の心の中のもやもやは日増しに深くなっていった。しかし、ある日、通勤途中に見た広告に心が引き寄せられた。それは「人生の葛藤を乗り越えるためのセミナー」を宣伝しているものだった。
「これだ!」と直感的に感じた私は、すぐにセミナーの申し込みを決意。そして、週末、都内のある会場で開催されるそのセミナーに参加した。
セミナーの講師は、心理学者でありベストセラー著者でもある女性だった。「人は感情の渦中にいると、本来の自分を見失いがちです。」彼女がそう言ったとき、私はふと田中さんの顔を思い浮かべた。
セミナーでは、参加者たちが一つの大きな円になって座り、自分の悩みや願いを共有する時間が設けられていた。「この環境で私の気持ちを打ち明けることができるのだろうか?」と、緊張しながら私も順番が回ってきた。
「私は...」と、言葉を紡ぎながら、田中さんとの関係や自分の感情の葛藤を話し始めた。すると、その言葉に重ねて講師が言ったのは、「感情の背後には、それを生む原因があります。感じることは間違いではない。大切なのは、その感情とどう向き合うかです。」
例えば、ある種の植物が乾燥した土地に生えている場合、その植物を別の環境に移すだけで元気になることもある。私の心も、今の状態から変えるための新しい視点や方法を探求する必要があるのかもしれない。
セミナーの後、私は数冊の心理学の書籍を購入し、深く学び始めた。そして、毎週のようにカウンセリングを受けることにも決めた。
数か月後、私は自分自身との対話の中で気づきを得ることができた。それは「感情は無視するのではなく、受け入れて向き合うことが大切」というものだった。
田中さんに対する感情も、私の人生の中の一部。この経験を通じて、私は自分自身を深く知り、成長することができた。
結論: 新しい日常への一歩
夕暮れのオフィス。私は一人、デスクで深呼吸をしていた。窓の外を見ると、都会のビルの間に沈むオレンジ色の夕日が美しく、その景色が私の心に柔らかな光を投げかけていた。
「真理、今日の打ち合わせ、本当によくやったよ。」突然の声に振り向くと、田中さんが微笑んで立っていた。
「ありがとう、田中さん。」心の中で、私はつぶやいた。「でも、この感情は…」
そう、彼に対する感情は消えていなかった。しかし、カウンセリングや読書を通じて、感情との向き合い方を学んできた私は、その感情を無理に排除することはしなかった。
「田中さん、」私は深呼吸をしてから続けた。「実は、私、あなたに対して特別な感情を抱いています。これは私の気持ちなので、責任を感じてもらうつもりはありません。ただ、この気持ちを正直に伝えたかったんです。」
田中さんは少し驚いた顔をしたが、しばらくの沈黙の後、穏やかに言った。「真理、正直に気持ちを伝えてくれてありがとう。私も驚いているけど、君の勇気には感謝してるよ。」
この会話が、私たちの関係を変えるかどうかはわからない。しかし、自分の感情を受け入れ、それを正直に伝えることで、私は新しい日常への一歩を踏み出すことができた。
例えるなら、窮屈な靴をずっと履き続けていた足が、やっと自由になったような感覚。これからの日々は、どんな小さな一歩でも、私の真心のもとに進んでいく。
明日は新しい日、そして新しい私。この経験が私に与えてくれたものは、自分の心に正直に生きる勇気。それは、どんな障害にも負けない強さとなって、私の胸に宿っている。